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進料加工企業の抱える移転価格リスク

中国の安価な工賃と、香港の低い税率を組み合わせた外資による対中投資が、2008年度までは、華南地区(深圳、東莞、恵州、広州など)における中国ビジネスの「うまみ」とされていました。

この方法は、外資(多くは日本・台湾・韓国の企業)が、まず香港に現地法人を設立します。その香港法人が出資して、華南地区へ委託加工工場を建設。中国工場で製造された製品は、「転廠」という手順を踏んで、客先の中国工場へ納品し、代金の決済は香港の事務所間で行います。

この方法のメリットは、香港側から中国側へ発注する製品の価格を低めに設定し、香港側の事務所に多くの利益が溜まるようにします。香港はタックスヘブンとも言われ、17%前後の企業所得税であり、海外送金にも規制がない事から、利益をプールする拠点としては最適です。その為に、多くの外国企業が、この方法をフォローして利益をあげました。この方法における大まかな商流を下図で、簡単に示します。(図をクリックで拡大)

ところが中国の国内経済は大いに発展し、中国のメーカーがアジアで日本や韓国メーカーと競争するほど育ってきました。その為に、上記のような外国企業の投資に、大きなメリット(保税輸入、税制優遇)を与え続ける必要性が低下しました。そこで外国企業と国内企業の差別を止めて、どちらも平等の条件になるように法律の調整を開始します。

華南地区の加工貿易は、主に香港側に利益がプールされている事は、中国の税務署も知っていました。そこで2006年度に香港へ利益移転を防ぐ新しい法律ができて、上記の商流における*1と*2と*3の製品単価を、すべて「同じ」にしなさいというルールができました。

このルールを実施する為に、中国側の通関と税務署は、工場側が単価を不当に低く設定していないかをモニタする為に、いくつかシステムの変更を行ったようです。まずは下記の図をご覧下さい。(図をクリックで拡大)

上記*3の販売単価(香港側事務所が香港側客先へ販売した単価)と、*2の販売単価(工場が香港事務所へ完成品を売った単価)を比較できれば、利益移転しているかどうかはすぐにわかります。香港は中国の特別自治区ですから、中国税関が工場と香港事務所へ同時に出かけて行き、個々の商品の販売単価を確認できれば良いのですが、今のところそのような実力行使が行われたという話しは聞いていません。(中国と香港の移転価格における協定

*3の販売単価が見えなければ、中国税関は、どうやって香港側の利益移転を捕捉する事ができるのでしょうか。その方法は、上記の*6から*9に注目してください。

中国では、材料を保税輸入できる外国企業は、完成品を原則としてすべて輸出しなければなりません。しかし最終セットメーカー(たとえばキヤノンやエプソン)の下請け業者が、すぐそこにある納品先へ届ける為に、毎回毎回、香港へ輸出して再輸入していては、物流コストが高くつきますし、納期も遅れてしまいます。そこで、保税で加工した製品を、香港へ輸出せずに直に納品する方法があり、それを「転廠」と呼びます。

この転廠は、下請け業者側と納品先のお客の双方が、1か月分の転廠された商品を通関局へ「申告」します。たとえ両社の通関がはなれた別の自治体グループに所属していても、*6と*7の数量および金額はかならず合致しなければなりません。この転廠金額は、客先側の会計では材料購入費と関係があるので、客側では転廠購入単価を不自然に高低させる事ができません。財務帳票に大きな影響が及ぶからです。

この転廠金額*6と、工場が税務署へ毎月申告する財務著票の中の販売金額*9は、どちらも中国内の役所が捕捉できます。そこで税務署と通関は、転廠金額の比較を行う為に、*10を可能とするコンピュータ・システムを構築したそうです。

これで、*3の販売単価がわからなくても、かなり確実に、香港へ利益移転している会社を発見する事ができるようになりました。しかしながら、このような事実を知らない経営者が、香港・華南には、まだまだ非常にたくさんいるようです。

また、知ってはいるのだが、やろうにもできない会社も多くあるようです。ひとつのケースですが、香港側事務所が中国工場の資本金を調達する時に、日本本社から数億円の借り入れを行っている場合です。本社側からすれば、香港に溜め込んだ利益からゆっくり返済する予定であったので、いまさら香港側への利益移転を止められないというものです。

しかし、この移転価格の問題が発覚すると、2006年まで遡って罰金を科される可能性があるので、その金額が莫大になり、即倒産のリスクとなります。また、その場合には、工場の責任者(役員)は逮捕されて、裁判を受ける事になります。ですので、この問題には、きわめて慎重に対応する必要があります。

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