ホーム > ブログ

ERPシステムの導入が難しい理由(4)スイッチングコストの問題

カスタマイズ重視で行うERPシステムの導入は、大きな問題が発生し易いという話しを前回しました。今回は、カスタマイズに依存しないで現在の業務プロセスとERPシステムの制約とのギャップを埋める方法を検討します。

  1. 要な業務プロセスが非標準的である場合。ビジネスプロセス・リエンジニアリングという手法を用います。つまり、関連する業務部門全体の業務フローの最適化する為の業務改善を行います。その一例として日鐵商事のSAP導入事例を紹介します。弊社はかつて、香港にあるこの会社の販売管理システムの受託開発を行った経験がありますので、日鐵商事のSAP導入がいかに大変だったかが理解できます。鉄業界という特殊な業界の為、主要な業務プロセスが非標準的であり、ある程度のカスタマイズを行ったようですが、「システムを業務に合わせる」という事に執着せず、各部門の現場が業務プロセスの標準化を行った事が、ERPシステム導入の成功に結びついたのではないでしょうか。
  2. 例外処理(局所的な非標準的業務プロセス)がある場合。対応する処理内容は単純でも、その原因は何レベルもの入れ子状になった重層的な問題である場合が少なくありません。また、その原因は他部門であるとか、購買業者、外注業者、客先や倉庫業者が持つ制約条件に起因する場合があります。詳細な原因の究明を行い、関連部所や関連会社を含めて、業務プロセスの最適化を可能な限り行います。社外に起因している場合で、その会社の理解や協力を得られない場合には、その例外処理はシステム外で対処するようにします。ERPシステムは例外処理の対応を苦手としていますが、単純にシステム外処理として排除するのではなく、例外処理の原因となる非標準的業務プロセスの解決を行うように努める事で、現場の担当者も、この例外処理が何故発生するのかという理由が分かり、業務プロセスを見直すとしても、システム外とするにしても、当該部門の管理者や担当者の理解を得やすくなります。

いきなりビジネスプロセス・リエンジニアリングの話しに入りましたが、現在の業務プロセスを否定して改善提案を行う為には、販売・購買・生産・在庫など、企業が行う業務には、合理性を持つ標準的な業務プロセスが存在していると認める事が前提となります。 ERPシステムのパッケージは、当然ながらその標準的な業務プロセスを念頭に置いて設計されていますので、システムに合わせて業務を最適化するのではなく、標準的な業務プロセスに近づくように業務を最適化するという考え方が正しいと言えます。故に、企業の業務プロセスが標準的であるならば、パッケージソフトをそのまま使用する事も可能な訳です。しかしながら実際の企業はそう簡単ではありません。

現実のビジネスはシステムではなく人間が行います。人間は矛盾や例外を許容しますので、顧客や購買業者の事情に適応しながら構築された現在の業務プロセスは、標準的な業務プロセスと比較してギャップがあります。このギャップを如何に埋めるかが、ERP導入プロジェクトの成否を分ける重要な鍵の一つとなります。

ところが、業務プロセスやシステムの変更を行おうとすると、大きな問題に直面します。導入責任者が経営者を説得し、やっとビジネスプロセスの改善を行おうとすると、今度は現場の実務担当者から大きな抵抗を受ける事になります。なんだかんだと問題はあっても、とりあえず廻っている手慣れた業務プロセスを大幅に変更する事は、業務担当者にとってデメリットの方が大きいのです。また、業務プロセスを変更する事で作業量も作業時間も増大します。このように、古い手段から手段へ変更する場合に生じるコストの事をスイッチングコストと言いますが、業務プロセスの改善は、大きなスイッチング・コストを伴い、これを乗り越える事は容易ではありません。

総論としては了解できるビジネスプロセス・リエンジニアリングが、すべてのERPシステムの導入事例で、必ずしも成功する訳ではない理由がこれです。 この問題に対する回答は、上記の日鐵商事のSAP導入事例の中にあります。その部分を以下に引用します。

  • 「3度にわたる全社説明会も、営業部門に対する徹底したヒアリングも、経営トップの高い意識と全面的な支援があって実現したものです。ことあるごとにNEXTプロジェクトの意義について経営トップから全社員にメッセージを発信していただいたおかげもあり、全社一丸となってプロジェクトを遂行する環境を整えることができました。経営トップの意志を受けて、われわれプロジェクトメンバーも地道に努力を重ね、その結果として得られた全社員の意識の高まりに支えられながらプロジェクトを進めることができたのは本当によかったと思います」

企業トップがSAP導入を推進するという強い意思を永続的に示す事、トップの意思が末端まで伝わる為のガバナンスが企業内で正しく働いている事、これらがあってこそ、大きなスイッチング・コストの壁を超えて、ビジネスプロセス・リエンジニアリングを実施できるのだと考えます。

Leave a Reply