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部材メーカーが商社経由で販売するリスク

香港は昔から中継貿易が盛んな都市で、無数の貿易商社が存在します。1980年代に深圳経済特区が生まれてからは、日本から進出するメーカーに対して、部材の供給や完成品の口銭商売で繁栄しました。ところが2006年に、状況が少し変わります。進料加工企業の抱える移転価格リスクで述べたように、中国政府が移転価格税制を強化しました。日本からセットメーカーと一緒に中国進出した下請け工場の多くが、転廠を利用して中国側で納品し、代金請求は香港側で行っています。中国側の納品価格と、香港側の請求価格を「同じ単価」にしなさい、という法律ができました。この法律により、下請け業者が香港側企業へ利益を貯める事が難しくなる事は既に述べましたが、もう一つ、大きな問題が起こりました。 たくさんの下請け部材業者が、大手セットメーカーと商売したいと考えています。しかし既存の取引関係があるので、部材メーカーが新規で割り込むのはなかなか難しい。ところが大手セットメーカーは、部材の調達を、商社からも行っています。そこで新規参入の下請けメーカーは、わざと商社を「挟む」事で、商売が開始する方法があります。商社は既得権という力を利用し、「請求書類」を右から左へ流して、眠り口銭(コミッション)を受け取るだけの美味しい商売です。このようなケースの商流を下記に簡単に示します。 ところが、先に述べた中国の移転価格税制の強化により、香港側でやりとりされる請求書の単価について、C社が発行する請求書の単価と、A社が受け取る請求書の単価が「同じでなければならない」という事になってしまいました。この状況を、全体的に見ると下記のようになります。 上記は、進料加工企業の抱える移転価格リスクの商流と少しだけ異なります。それは香港側の請求ルートが、香港事務所から「販売店」を経由している部分です。上記で、販売金額*4と販売金額*5は原則として同じでなければなりません。つまり販売店である商社は、*5に口銭を乗せられないという事になります。この法律が出来て4年になりますが、未だに上記の方法で口銭商売を続けている商社は、特定のセットメーカーのベンダーで少なくないようです。 現在のところ、中国の税関や税務署が香港側へ査察に来たという話しは聞きませんが、いづれ何らかの方法で「実力行使」による摘発を行う時が来る可能性は否定できません。この時、一番大きなリスク(罰金)が来ると思われるのは下請けメーカー自身です。その時には、商社もセットメーカーも「知らん振り」で逃げる事が予想されます。(他所の会社の罰を共有したがるサラリーマンがどこにいるのでしょうか)他所もやっているからと放置していると、大きな経営リスクを生じます。ゆえに香港側で商社経由で「代金請求」している下請け部材メーカーは、一刻も早く、直接取引形態へ商流を改める必要があります。 この場合の対策として、次の2つが考えられます。実力のある下請け業者は、3を選択するべきです。日本側で商社と「切っても切れない」関係がある場合には、2で対応できるように、本社の役員を動かしましょう。移転価格税制にきちんと対応すると、香港事務所に落ちる利益が激減するので、口銭の原資を確保するのが難しくなるので、1は良い選択とはいえません。 1)外口銭(口銭を別途請求)にする。 2)日本本社側で口銭支払いを行う。 3)商社に外れてもらう。 実は香港には、眠り口銭を受け取る為に設立された、実体の薄い商社もあると聞いています。そういう商社は、部材メーカーが移転価格税制に真剣に取り組み始めた場合、香港から消滅する可能性もあるでしょう。

華南における転廠手続きと通関リスク

華南の保税加工貿易では、保税で輸入した材料を用いて加工した製品は、原則では全量を輸出しなければなりません。ところが実際に最終セットメーカーが製品をつくるには、多くの下請けメーカーが必要になります。当然の事ならが、ほとんどの下請けメーカーも保税加工貿易です。原則に従うと、下請けメーカーが製造した部材は、その都度、香港へ輸出し、中国へ再輸入する事になります。これでは物流コストが上昇し、納期も香港経由の分だけ長くなり、しかも再輸入時の通関書類不備により通関に長期留め置かれるリスクまで含めると、効率的な商流と成り得ません。そのようなニーズから、転廠が生まれたものと考えられます。 まずは転廠(深加工結転)を前提とした一般的な商流を下図でごらん下さい。転廠とは、保税で輸入した材料を加工した製品を、輸出せずに、同じく保税加工貿易の営業許可を持つ別の企業へ販売する事です。 青色部分の下請け工場では、保税材料を使って加工した製品を、中国内の客先工場へそのまま納品しています。客先工場が最終セットメーカーの場合、その工場で加工された製品は(その多くは香港経由)で日本など海外へ輸出されます。 ところで中国の通関は、材料の保税輸入と、それに相当する完成品の輸出を、各企業毎に、数量(重量)ベースで、コンピュータシステムにより管理しています。加工した製品を輸出すると、通関書類(Export InvoiceとPacking List)を確認し、企業から予め提出された製品BOM(部品構成表)を使用して、どれだけの免税材料が消費されたかを通関のコンピュータ・システムが自動的に計算して、企業側の保税材料の理論在庫を算出します。 この理論在庫と企業側の実際の在庫数量が一致しない事が、通関監査などで判明した場合、企業側は大きな罰金を支払う事になります。「製品出荷=通関通過」となる輸出では、しくみが単純なので、下記の2ケースが、主要な通関リスクになるものと思われます。 1)香港から「ハンドキャリー」で材料の密輸を常習的に行っている。 2)生産時の不良品が、大量かつ頻繁に発生し、通関に提出した製品BOMに登録された損耗率(生産時の不良想定数や、生産時に廃棄される事が明白な部材数量)を超えて材料を使用し、その累積数量が非常に大きくなっている場合。 ところが転廠の場合、製品は客先工場へ直接出荷されて、製品は通関を経由しません。ゆえに通関は、輸出における通関書類以外の方法で、各企業の転廠出荷される製品数(重量)を補足しなければ、企業側の免税材料の理論在庫を算出できなくなります。そこで広東省(と深圳)では、下記のようなしくみが導入されました。 通関の業務は、末端のひとつの通関事務所がカバーする地区毎に管轄が分かれています。仮に下請け工場がA地区にあり、客先工場がB地区にあるもとのとします。下請け工場は、下記の手順で転廠により製品の出荷手続きを行います。 ①客先別に来月の転廠予算申請を通関Aに提出 予算申請は、客先工場が通関Bへ提出するものと同じ内容でないと、申請が認可されず問題が発生する ゆえに予算申請は、両社の通関担当者が事前に内容(品名、数量、単価)を一致させる作業を行う事が一般的なようです ②当月になり、納品書を作成して製品出荷 ③客先毎の当月出荷実績(明細含む)を、翌月15日に、通関Aへ報告 実績報告は、客先工場が通関Bへ提出するものと同じ内容でないと、申請が認可されず問題が発生する ゆえに実績報告は、両社の通関担当者が事前に内容(品名、数量、単価)を一致させる作業を行う事が一般的なようです 両社が通関(A,B)へ提出する転廠予算申請の書類を下記でごらん下さい。 この手順をもう少し詳しく分解して時系列的に並べたもの図を下記に示します。 この転廠では、出荷される製品を通関が物理的に確認する事ができないので、企業側は以前から、管理不足あるいは意図的に、数量や単価の差異が発生してきました。転廠における大きなリスクの一つは、実際の出荷数量と、社内の通関部門が通関Aへ実績報告した数量にしばしば数量差が生じるという問題です。これは、通関部門の書類ミスだけではありません。下請け工場が香港へ利益をプールする手段として、通関へ報告する出荷実績を意図的に変えたり、客先工場側の通関担当者から「強い依頼」があり、出荷実績を過少報告せざるを得ない場合などが想定されます。 前者は工場経営者が意図的に行って入るので、数量差の発生は自明であり経営者は認識していますが、後者の場合は情報が通関部門だけで留まり、経営者が知らない場合がしばしば発生しているようです。そのような数量差を通関部門がきちんと管理できていれば、客先との間で中・長期的に数量の辻褄を合わせて行く事になります。しかし通関部門で管理者が頻繁に変わったりすると、過去に累積した数量差が管理しけれなくなり、潜在的な通関リスクとなってしまいます。 これが、華南における工場経営で、もっとも普遍的かつ致命的な通関リスクであると思われます。香港側事務所へ利益を貯める為に、意図的に行われている古典的な方法は下記の通りです。 「転廠による実際の納品数量・通関単価に比べて、中国工場が香港事務所へ請求する製品の代金を過少に請求する」 繰り返しになりますが、輸出のケースでは通関が出荷数量を物理的に確認する事ができますので、出荷数量を誤魔化すのは難しい。しかし転廠では、通関が出荷製品を見られないので、書類操作だけで、通関を長期的に誤魔化せる可能性が高まります。そこで、非常に多くの保税加工貿易企業が、この方法で香港への利益移転を行って来たようです。 しかし、2006年に移転価格税制の強化が図られ、こちらで示したように、通関同士をコンピュータシステムで連結し、通関と税務署のコンピュータシステムの「接続」が行われた結果、通関による現地査察を行わずに、不正を行って入る企業を絞り込む事ができるようになっている事は既に述べました。 華南で保税加工貿易を営む工場経営者の多くは、転廠における事務手続きの知識が不足している方が多く、極めて危険と言わざるを得ません。たとえてみれば、地雷の埋まっている道を、地雷の敷設地図も、地雷探知機もない「両手ぶらり」状態で歩いているようなものです。いまからでも遅くありません。法令遵守と、工場内の通関部門の透明化と、通関・会計・倉庫部門の社内的な情報共有を行う事を強くおすすめします。 華南と転廠についての参考記事: *生産合同(免税手帳)の正体 (1)通関と企業の生産契約 (2)生産合同の製品登録と社内品番の関係 (3)生産合同と保税材料の有効期限 (4)不良品の処分 (5)通関理論在庫の計算方法 *通関当局の定める信用度分類 (1)5段階評価とは何か (2)保税材料の保証金 (3)もしC類に降格したら? (4)昇格への条件 (5)A類昇格への道 *広東省加工貿易事情