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独資転換の十分条件(2) 資本構造を転換せよ

前項では、華南にある独資形態の加工貿易工場で、いまなお違法と知りつつ、中国工場の利益を「価格移転」により香港へ集中せざるを得ないのか、という原因について述べてきました。では、どうしたらこのアリ地獄から逃れる事ができるのでしょうか。 1)香港法人の資本 新たに華南へ進出する場合には、香港法人の資本金に、工場設立の資本金を含んで投資を行います。香港法人が既にある場合には、中国工場設立時の借り入れ残高に相当する金額を増資します。 2)中国工場の製造設備の調達 これは前項と同じですが、日本法人の既存の中古設備を香港法人へ販売する場合、価値を大幅に膨らませて、機械の販売自体で利益を出そうとするのは止めましょう。自分の子会社から「ぼったくる」事は、自分の手足を食べるのと同様に無意味です。(中国税関は中古設備の輸入はできなかったと記憶しておりますので、税関対策としての「化粧直し」は必要かと思います。)既存の委託生産工場の独資転換では、生産設備はすでに中国内にありますので、この項目は飛ばして次へ進んでください。 3)中国法人への現物出資 中国で工場設立の申請から営業開始までには時間がかかります。最低でも3ヵ月から半年の期間を見ておく必要があるでしょう。新規進出する場合で、日本法人が半年程度の期間、中国工場の資本金を現金で用意できるようであれば、香港法人から中国法人への資本金の出資は現金がベターと考えます。中国の法律は5年とか10年単位で、予測できないほど変わる事があります。委託生産企業が直面している独資転換の圧力がその典型的な例と言えます。現金出資は真ん中ストライクの方法ですので、将来の変動に対して最も柔軟に対応できると考えます。現金調達ができない場合には現物出資での対応になりますが、一時的な節税に目が眩んで、外角ぎりぎりを攻めないようにするべきです。今年の合法は3年後に違法となる可能性があるからです。既存の委託生産工場の独資転換では、生産設備はすでに中国内にありますので、現物出資が第一優先順位となります。 4)香港法人の過小資本の解消 本項1)にて、香港法人の「日本法人からの借入金」相当額を増資すると述べました。増資したお金で、日本法人への負債を返済します。すると、表面的には日本法人の貸借対照表の資産の部にあった「香港法人への貸付」が、「香港法人への資本投資」へ変るので、全体として大きな変化はありません。しかしながら香港法人側の貸借対照表では、負債の部にあった「日本法人からの借入金」が消えて、それと同額が資本の部で増資された資本金として現われますので、いままで香港法人に重くのしかかっていた「返済金」がなくなります。これで、香港法人へ「利益を集めなければならない」原因は解消されました。これからは、2006年に施行された移転価格防止のルールに従い、中国法人の利益は中国へ貯めるようにします。 5)中国法人の利益を日本法人へ回収する方法 中国法人が蓄積した利益(企業所得税を引いた後の利益)は、原則として配当金の海外送金として香港へ送る事ができます。配当金を香港へ送金するのは、中国法人の累積債務も解消されている必要がありますから、独資転換したタイミングで、このスキームへ転換するのが良いと考えられます。 (1ページ目へ戻る)

独資転換の十分条件(1) 香港へ利益移転させる理由

華南の加工貿易企業の多くが、委託生産であれ独資企業であれ、いまだに香港法人への利益移転を、違法と知りつつ行っています。違反が発覚した場合の被害は甚大で、中国工場は倒産の危機を迎え、十中八九は中国市場から退場となります。本社経営が中国工場に大きく依存している場合には、本社の屋台骨もグラついてしまうでしょう。このように大きな経営リスクを冒しながらも、状況を変えられない理由が何処にあり、どのようにすれば改善できるのか、という事について考えて行きたいと思います。 1)香港法人の設立 日本本社が中国へ工場設立する場合に、華南地区とそれ以外の地域では、会社設立の方法で大きな違いがあります。華南地区に進出した大手セットメーカーの加工貿易工場(保税材料を輸入して原則全数輸出)は、香港に法人を設立し、部材業者への発注と支払いをすべて香港内で行っています。セットメーカーと取引する膨大な数の下請けメーカーの加工貿易工場も同様に、納入は転廠(保税状態のまま内地の客先工場へ直接納入)で行い、お金の請求と受け取りは香港法人が行います。故に、華南地区へ工場進出するには、かならず香港法人が必要になります。そこで、まずは日本本社から香港へ会社を設立します。香港法人の主要な役割は、工場の材料調達に関する貿易業務と決済業務ですので、数名程度の事務スタッフと総経理により十分に運営できます。 2)香港法人の工場設立原資調達 これから中国へ設立する工場の資本金を香港法人が出資します。中国工場の資本金は、工場立ち上げから稼動までに必要な金額を含んでいないと、中国政府から認可を受けられません。そこで、香港法人は日本本社から、中国工場の資本金を借りる事になります。 3)中国工場の製造設備の調達 日本本社から借りた1億円で、中国工場で使用する生産設備を購入します。多くの場合に、それらの設備は、日本本社を経由して購入します。 4)中国法人への現物出資 本来は現金で1億円を中国へ送金し、中国法人の資本金とするべきです。しかしながら、実際には多くの企業が、日本から購入した設備を資本金として現物支給しています。過去に中国では、外国企業が独資で工場設立する場合は、最低資本金の壁が高かった事は事実です。中小メーカーがその壁を「現金」で越えるのはなかなか難しく、日本側の工場で所有する中古機械を化粧直しして、評価額を膨らませる事で資本金の壁を越えていたという事は考えられます。いづれにせよ、上記の1-4までの手順にて、華南には多くの加工貿易企業が設立されました。 5)歪んだ資本構造 このようにして設立された香港法人と日本法人の間には、歪んだ資本構造があります。資本1億円の中国工場の親会社である香港法人の資本金は1000万円で、工場設立資金はすべて本社から借り入れで賄っています。工場設立資金の1億円を含めて香港法人を設立すれば、こういう構造にはならなかったと考えられます。 6)長期で続く大きな返済 香港法人の貸借対照表には大きな借入金が負債としてあるので、これを日本法人へ返済する為には、長期間、中国工場が稼ぐ利益を香港へ移転させねばなりません。これが理由により、多くの工場では下記の方法を用いて、香港法人へ利益を移転させざるを得ない状況となっているものと推測します。 A)香港法人は可能な限り利益を上乗せした材料を中国法人へ売る。 B)中国工場はぎりぎり利益が出ない程度のアンダーバリューで完成品を香港法人へ売る。 少なくとも1990年代後半に華南進出した企業は、毎年それなりの利益をあげていれば、既に香港法人の負債の返済が終わり、「逃げ切った」のではないかと考えられます。しかしながら、これから委託加工生産から独資へ転換する企業が、上記の資本構造で中国へ工場設立するのは、極めて大きな長期リスクを負ってしまったと言えます。 では、どうすれば長期的な通関リスクから開放されるのでしょうか。 (2ページ目へ進む)