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中国ビジネスの難しさ

23日のアゴラ企業塾は、中国ビジネスのむずかしさとおもしろさです。面白さについては、そもそも中国に興味をもっている方であれば、わざわざ説明する必要もないと思いますので、中国ビジネスの難しさについて、私の経験をもとにいくつか紹介してみたいと思います。 1)会社をつくる難しさ 中国で外商独資企業を設立するのは、なかなか大変です。下記の手順をご覧頂ければ理解頂けると思いますが、ひとつの会社を設立する為に、場合によっては10の役所の窓口を訪れ、申請や承認や証書の受け取りを行わなければなりません。(より詳しい内容は、こちらをご参照ください) ここで特に問題になるのが、工商局でもらう営業許可証です。(営業許可証の範囲は、貿工局の批准書の営業範囲により規定される)中国では、あらゆる業種や業態が許認可制度になっているようなものです。営業許可証の営業範囲は、申請者が提出するフィジビリティーレポートの内容について、役人が理解できる範囲を、役人が適当と考える文言で規定されます。説明に不足があったり、意図的にぼかした説明をすると、間違った文言の営業範囲になります。 また、通信、ソフトウェア、インターネットの周辺分野では、そもそも既存の文言で規定できない分野があり、これをどのようにあてはめて、辻褄を合わせてゆくかが問題になります。 いづれのケースでも、工商局あるいは税務署(国税、地税)が、営業ライセンス範囲外の営業をしていると認識した場合、過去に遡って大きな罰金を受ける事があり、順調に成績を伸ばしていた会社が瞬時に倒産の危機に陥る可能性があります。 2)複雑な税関のルール 免税で材料を輸入している製造業が、輸出販売と国内販売を行う場合には、原則としては工場内の材料や製造ラインを、輸出用と国内販売用に厳密に分離させる必要があります。省や都市により、通関がこのルールを厳しく対応する場所と、そうでない場所がありますが、問題が起きて通関の役人が監査に来た場合には、このルールが厳密に適応されて、大きな罰金を受ける可能性があります。 また、免税材料で製造した製品を国内の客先へ販売する場合、保税倉庫を通す事で輸出したと「みなす」手順が認められている地域があります。たとえば上海、蘇州、広州などです。これは昨年の法改正で更に適用される地域が広がっています。ところが問題のある地域もまだ残っている可能性があります。通関と税務署は、それぞれが税金を個別に徴収する立場から、両役所の利害が一致するとは限りません。両役所の意思疎通がとれていない地域では、通関は「みなし」輸出を認めても、税務署は納税額が減るので輸出と認めない場合があるので注意が必要です。 3)売り上げ計上のタイミングの難しさ 中国の税務署は、原則として毎月の月末が期末処理です。企業は毎月の利益を、翌月の中旬までに利益を確定させて、増値税その他の税金を税務署に支払います。ところで増値税発票(インボイス)は発行日が売り上げ計上日であり、バックデートもポストデートできません。ところが日系企業では、末締め、翌月末払いのような支払い条件の会社が圧倒的に多いようです。税務署は原則として、出荷=売り上げ計上を求めてきますが、企業としては、納入先からステートメント(納品確認)が来るまでインボイスを発行できません。 また、輸出加工貿易企業が、輸出しないで転廠(国内の輸出加工貿易企業へ直接に納品する)場合で、発送側と納品側の通関局が別の地域にある(管轄が異なる)場合に、税務署と通関局は、通関計上=受け上げ計上のタイミングを要求してきます。 会計的に逃げる方法はありますが、会計処理はかなり煩雑になるので、それに適合した会計システムを使わない場合に、きちんとフォローするのが困難になります。 4)社員の不正 下はボイラーの修理員から、上は高学歴の上級ITマネジャーまで、あらゆる層において、機会さえあれば業者からのバックコミッションの受け取り、余剰材料の横流し、不正な請求書の発行、売り買いの単価のごまかし、会社備品の横領など、数えあげたらきりがないほどの不正が、中国のいたるところで行われています。 新規の業者が購買担当者にアプローチする場合、競合相手より安い単価でオファーし、さらに購買担当者へ購買金額の何%かをキックバックする業者もいます。 多くの中国企業の総経理は、不正を暴く事のリスク(脅迫されたり命を狙われるリスクを負う)ゆえに、不正根絶の為の積極的なアクションを取りたがらないようです。 このような不正を防止するには、とにかく社内の業務プロセスが見えるようにして、受発注や在庫の数字が、コンピュータシステムできちんと把握され、社外のコンサル企業が業務のデータを定期的に分析して管理者へ報告するなどを行う事により、社員に対して常に隙を見せないようにする事が重要であると考えます。 5)合弁パートナー 日本人と中国人のメンタリティーはかなり異なります。中国市場へ参入する当初は、現地パートナーと組む事により、スタートアップが楽になります。その会社が成長して利益を上げるようになると、無断で会社のお金(キャッシュフロー)を自分の会社の資金繰りに借用(月初に借りて月末に返す事を毎月繰り返す)したり、財務や総経理など重要なポジションの人間を自分の息のかかった人間で固めて、会社の内容を見え難くしたり、いろいろな問題が発生する事があるようです。 上記の5つは、多くの方が懸念されている問題かと思いますが、なかなか日本側の本社役員には理解されにくく、現地の責任者がひとりで頭を悩ませているようです。

中国で外商独資企業の設立手順

外商独資企業とは、外国の企業や個人が100%出資して中国内に設立する会社の事です。我々日本人が、外商独資企業を中国で会社設立するのは、なかなかやっかいな手順を踏まねばならず、ブラックボックス化されがちです。ともすれば会社設立のコンサル企業へ「お任せ」で設立してしまいます。 しかし、会社設立のプロセスには、その後の会社運営に欠かす事のできない貴重な情報が埋め込まれています。既に会社(工場)運営している総経理や財務責任者、これから会社設立される方の参考になるように、会社設立手順の概要を以下に説明致します。 外商独資企業でも合弁企業でも、輸出加工貿易でも国内販売でも、会社設立時には基本的に下記の役所のお世話になります。 上記の役所による、新会社の申請手順を下記の図に示します。 上記の各ステップについて説明します。なお、役所名が簡体字で表記されており、あなたのWindowsに簡体字Fontがインストールされてないと役所名が文字化けして見えませんので、下記説明では役所名への言及は省きます。 【STEP-1】 新会社の会社名をいくつか作成して、この役所文書で申請し、使用可能であるかの審査を受けます。中国の社名フォーマットは、役所のルールでかなり厳密に定められています。簡単に言うと、基本形は下記の通りです。 [固有名]+[業務形態を示す文言]+[会社形態] これに、登記する行政的な場所名を加えます。 [場所名]+[固有名]+[業務形態を示す文言]+[会社形態] 或いは [固有名]+[業務形態を示す文言]+[(場所名)]+[会社形態] 具体例を示します。 1)場所名が先頭に来る例: 深圳艾斯尔计算机技术有限公司 2)場所名が社名中に入る例: 艾斯尔计算机技术(深圳)有限公司 ここで、「艾斯尔」は固有名詞部です。余談ですが、弊社の香港では、会社名をISLと3文字の略称で呼んでいます。中国語の社名を考える時に、アイセスエルの発音に近い簡体字の漢字の組み合わせから、この名前を造語しました。 「尔计算机技术」(計算機技術)は、弊社が中国内で会社申請時に想定している業務範囲です。計算機は言わずと知れたコンピュータ関係の事で技術は技術的なコンサルテーションを行うという意味。両方あわせて、コンピュータ関係の技術的なコンサルテーションのサービスが業務範囲となります。なお、会社登記時には社名の中の業務形態が、営業範囲と一致しますが、設立後に必要な額まで増資する事で、営業範囲を後付けで増やす事ができます。 余談ですが、最初はコンピュータを表す文言として「電脳」を使いたかったのですが、この役所にいる「年寄り」の役人は誰も電脳の意味がわからず、却下されてしまいました。深圳市でも南山にあるITパークでは、電脳を含む会社名で登記されている会社がありますので、申請場所や役人の知識や経験の範囲によって、社名の制約は大きくかわるようです。 【SETP-2】 工場や、自社ビルを建てる会社などは、消防および環境に関する認可を得るために、この役所へ申請する必要があります。弊社は事務所を借りて経営するサービス業なので、この役所はパスしました。 【STEP-3】 この役所では、フィジビリティーレポートと称する文書を提出し、業務内容や、運営計画などについての説明を行います。投資規模の大小や、出資元の財政状況により、簡単な文書説明で済む場合もあれば、詳細な説明やプランを求められる場合もあります。 この役所では、営業内容を審査しますので、先に承認をもらった会社名が、実はこの営業内容には不適格である場合があり、社名の取り直しを求められる事があります。弊社はSTEP-1とSTEP-3を3往復以上しました。その度にフィジビリティーレポートを作り直すのは非常に面倒でした。 フィジビリティーレポートが通り、営業内容を担当の役人が理解し、業務内容と社名が適合している事が認められると、ここで批准書(批文)をもらいます。これは、いってみれば会社設立の許可証です。以下にサンプルを示します。 他に、あなたの会社の名前が彫られた公式な社印も受け取ります。 【STEP-4】 工貿局で批准書をもらったら、もう一度、工商局へ戻り、やっと営業許可証をもらいます。この営業許可証に書かれている文言は非常に重要です。もし会社がすでに登記済みであれば、ぜい一度、営業許可証にある営業範囲の文言を見てください。あなたの会社は、この営業範囲に示された文言の範囲でのみ営業できます。 営業範囲には、たとえば工場であれば、製造する商品の種類や、営業形態つまり輸出加工貿易であるとか、委託加工生産であるとか、国内販売であるとか、そういう細かな事まで規定されています。 下記は会社の定款です。 【STEP-5】 この役所では、あなたの会社の身分証明番号の証書とIC CARDを受け取ります。この番号は、いろいろな役所があなたの会社を識別する為に使用するようです。具体的には、公安や税務署(国税と地税)などです。 【STEP-6】 公安は日本の警察と同じ意味の役所ですが、ここでは工商局で受け取った印鑑(社印)の登録をします。 【STEP-7】 国税局で、国税登記証を受け取ります。壁に貼り付ける大判の証書と、携帯用の冊子形式の2つの証書があります。下記は携帯用冊子です。 【STEP-8】 地税(地方税)局で地税登記証を受け取ります。壁に貼り付ける大判の証書と、携帯用の冊子形式の2つの証書があります。下記は携帯用冊子です。 【STEP-9】 いわゆる外貨管理局です。外汇登記証を受け取ります。中国外から、設立する会社の資本金の送金をしたり、本社から借り入れしたり、本社へ特許料などの送金をしたりする為に、この役所とは長い付き合いになると思われます。 外国企業が会社登記する場合、メインバンクとなる銀行は、外貨管理局が何行かの選択枝を明示し、その中からあなたのメインバンクを選ぶ事になります。中国銀行や中国工商銀行などです。 【STEP-10】 選択した銀行で、まずは資本口座(資本振込み用)と、運営用(人民元)の最低2つの口座をまずは開設します。必要に応じて、運営の為の外貨口座の開設はあとから行う事ができます。 【STEP-11】 資本金の振込みが終わったら(分割払い込みの場合は毎回の払い込みの後で)この役所に届け出ます。貿工局にも同様に届け出ます。 これにて、会社登記の手続きは終了です。これまでに受け取った証書類の中で、経営者にとってもっとも重要なのは、企业法人营业执照(営業許可証)です。この中に明記されている営業範囲は、あなたが行おうとしている(すでに行っている)業務内容と適合しているか、少しでも曖昧な点はないか、十分に確認して下さい。 営業許可証に示される業種の文言は、歴史的に長く続いてきた業種(販売やショップや飲食)については明快に規定されますが、近年になって現れた業種(通信、IT関係、加工貿易など)の中には、役人の古い頭脳では理解不能なものが多くあります。これらの業種で会社登記する人は特に要注意です。既存の業種を示すある文言を、役人Aは「適用化」と判断し、役人Bは「摘要不可」と判断する事がしばしばあるからです。 ある文言を拡大解釈して業務に適応させようとする場合、業務範囲の逸脱による大きなペナルティー(罰金)に対処する為には、業務内容を税務署(国税局、地税局)の担当者によく説明し、税務署が納得する契約書を作成するようにするべきでしょう。